私は、１９８１年の大学卒業後、すぐに大田区にある牧田総合病院で診療をはじめました。牧田総合病院は地域医療の中核を担う医療機関であり、一般的な診療に加えて、事故などにあって救急外来に運び込まれる患者さんもたくさんいらっしゃったんですね。そうした環境の中で２０年あまり経験を重ねたことで、最先端の知識や技術を身につけることはもちろん、外科的な処置についてもスキルを磨くことができました。
勤務医時代は、入院患者さんのベッドサイドに赴いて診療する機会も多くありました。私の歯科治療によって、患者さんがしっかりと噛めるようになって、栄養補給のためのチューブが取れ、口から食事ができるようになると、みるみるお元気になって退院できるというケースがたくさんあったんですね。患者さんが社会復帰するための手助けができていると、医師ならではのやりがいを感じ、充実した日々を過ごしておりましたので、当時はまさか自分が開業するなんて思ってもみないことでした。

「百聞は一見にしかず」ということわざをご存知かと思いますが、治療をするにあたって私は常にこの言葉を意識して、目で見てわかりやすい説明を心がけています。患者さんは、ご自分のお口の中を直接見ることはできませんから、今の状況や治療内容について、丁寧にお伝えする必要があるわけです。たとえば、治療前には、レントゲンや口腔内カメラの画像をご覧いただきながら、ご自分のお口の中で何が起きているのか、どんな治療がおこなわれるのかをご理解いただきます。その上で、たとえば神経の管の部分に対する治療をするのであれば、「煙突の中をお掃除しますよ」と、イメージしやすい例になぞらえてお話をします。そして、毎回の治療では「まずは壁についた汚れを落としますよ」と言った感じに、その日におこなう治療内容についてわかりやすくお伝えするんです。こうして1つ1つをクリアにしていくことで、患者さんの理解も深まりますし、治療内容についてもきちんと把握してくださるようになります。